Rinaの皿には、かぼちゃのタルトがひと口だけ残っていました。Emiが注ぎ足した紅茶から、また細い湯気が上がります。
Rina(りな)気持ちを知りたいって聞くのに、違う答えは聞きたくない。……さっき自分で言って、ちょっと困っちゃった。



うん。聞けたらすっきりする、だけじゃないんだねぇ。



「私も会いたかったよ」って言ってほしいんだと思う。そこ、全然公平じゃないよね。
窓辺のかぼちゃのランタンは、相変わらず大きな口で笑っています。Rinaはその顔を見て、私もそのくらい余裕があればな、と小さく息を吐きました。
前編「会えたのに、寂しいのはなぜ?」で見えてきたのは、会う日程だけでなく、相手の「会いたい」も知りたいという願いでした。今日は、その願いを言葉にしたあとのお話です。
欲しい答えがあるまま、聞いてもいい?



好きな人に、会いたかったって言われたら嬉しいよねぇ。どんな返事でも同じくらい嬉しくなるのは、難しそう。



そう。断られたら傷つくし、たぶん顔にも出る。相手の気持ちを尊重できる人って、そこで笑って「分かった」って言える人なのかな。



Rinaが寂しそうにしたら、それだけで相手の答えを認めていないことになる?



……それは、ならないか。私が断る側でも、残念そうにされたら、残念なんだなとは思うけど。
Rinaはカップを両手で包みました。欲しい答えがあることと、別の答えを出させないこと。その間には、自分で選べる振る舞いがあります。



「そっか。私は会いたかったから、寂しいな」くらいは言ってもいいんだね。そこで「じゃあ会ってよ」って、返事を変えるまで続けなければ。



うん。寂しい気持ちも会話にあっていいよ。すぐ受け止めきれないなら、「少し考える時間がほしい」と言うこともできるね。
答えを聞く勇気は、傷つかなくなることから始まるとは限りません。傷つくかもしれない自分のままで、相手が実際に話したことを聞こうとする。そんな始まり方もあります。
安心させてもらうほど、本心が見えなくなる



でもさ。「会いたいのは私だけなんでしょ」って言って、「そんなことないよ」って返ってくると、ちょっと安心するんだよね。



その安心は、どのくらい続く?



……あんまり。「私がそう言わせたのかな」って、また考えちゃうから。
言い終わってから、Rinaは自分の言葉をもう一度聞くように黙りました。



欲しかった返事をもらったのに、自分で疑ってる。向こうから言ってほしかったから?



そうかもしれないね。相手が違うことを言うたびに聞き直して、最後に欲しかった言葉が返ってきたとしたら……。



本当にそう思ってるのか、この話を終わらせたいのか、分からなくなる。
相手の気持ちが知りたくて、安心できる答えを求める。その答えに近づけるほど、「相手が自分で選んだ言葉なのか」という、いちばん知りたかった部分が見えづらくなることがあります。
ようやく「好き」と言ってもらえた。それでも不安が残って、今度は言い方、返事の速さ、次の誘いを確かめたくなる。言葉が足りないだけだと思っていたところに、言葉を受け取れなくなるやり取りが重なっているのかもしれません。



私が欲しかったのは、正解を言ってくれる人じゃなくて、自分から私を好きでいてくれる人だったのに。



うん。その人自身の気持ちを知りたいなら、Rinaとは違う気持ちも話せる場所が必要になりそうだね。



それ、怖いなぁ。話していいよって言ったら、聞きたくなかったことが出てくるかもしれない。
Emiはうなずきました。「きっと大丈夫」とは言いませんでした。答えを自由に話してもらうことには、知らずにいた違いが見える怖さもあります。けれど、そこが見えた時に初めて、今のふたりで何を選べるかを考えられます。
「好きならできるはず」の中で、話せなくなること



私だったら、好きな人には会いたくなる。だから、会おうとしないなら好きじゃないって思っちゃうんだよ。



Rinaの「好き」は、会いに行くことによく表れるんだねぇ。



うん。でも、それを相手にも当てはめてたのかな。
Rinaは、テーブルに置いたスマートフォンを裏返しました。今は画面の中に答えを探すより、もう少し話したいと思ったのです。



友達に「好きなら毎晩電話できるでしょ」って言われたら、私は困るかも。話したい日もあるけど、眠りたい日もあるし。



その時、「眠りたい」は「あなたが嫌い」と同じ?



違う。でも、そう言われたら、電話するか、好きな気持ちまで否定されるかになるね。
自分ならこうする。その実感は、自分の望みを知る手掛かりになります。けれど、それだけで相手の気持ちまで判定すると、その人が説明できることが減ってしまいます。
「今日は難しい」の理由を話したくても、「本当に好きなら」と返される。すると、会いたい気持ちがある人でも、次の会話を身構えることはありそうです。一方で、会いたくないという答えを、こちらが「忙しいだけ」と読み替えてしまうこともあります。どちらの場合も、相手の言葉が自分の予想に置き換わっています。



相手の気持ちを知りたいって言いながら、私の中の「好きの形」に合うかを見てたんだ。



その形を大切にしたいことも話せるよ。「私は、ときどき相手からも誘ってもらえる関係が嬉しい」って。



私が欲しい関係を伝えるんだね。相手が好きかどうかを、私が決めるんじゃなくて。
私だけ、聞き分けのいい人にならなくていい



でも、ここは残したい。相手が「会いたいなら来れば」としか言わない時もあるよ。私が何を聞いても、決めるのは全部こっち。



うん。前のお話でも、そこが寂しかったんだよね。



相手を尊重しようと思って、私が全部飲み込んだら、結局また、向こうがどうしたいのか分からないままだよ。
Emiは、テーブルの端に滑っていた紙ナプキンを戻しました。相手の答えを受け取るには、まず、その人の答えが必要です。



「来てもいいかは分かったよ。あなた自身も会いたいと思っているかを聞きたかったんだ」って、聞いていることを伝え直せるね。



それでも「好きにして」で終わったら?



その時点では、相手の気持ちは分からないままだねぇ。ただ、自分の気持ちを話してもらえなかった、というやり取りは残るよ。
分からないところを、好意にも拒絶にも決めつけずに置く。そのうえで、こうしたやり取りを自分は続けたいのか考えられます。相手の内心を解き明かさないと、自分の次を選べないわけではありません。



「私は、お互いに会いたいと思って会える時間が欲しい。今のままだと、一人で決めている感じがして寂しい」なら、私の言葉かな。



うん。Rinaが何を一緒にしたいのかが見えるね。



あと、約束が変わったら知らせてほしい。それも、私が不安にならない練習をすれば済む話じゃないよね。



そうだね。連絡がなくて困ったことは、その出来事として話したいね。自分の伝え方を見直すことと、相手にお願いすることは、両方できるよ。
自分の言葉を変えようとする時、相手の対応まで正しかったことにしなくてよいのです。何が寂しかったのか、何に困ったのか。それを残したまま、相手にも自分の考えを話してもらいます。
違う答えのあとにも、私が選べることがある





じゃあ、ちゃんと聞けて、相手が「話すのは楽しい。でも、ふたりで会うことは望んでいない」って言ったら。私はどうしたらいい?



Rinaは、その関わり方で過ごせそう?



分からない。少し話せるだけでも嬉しいかもしれないし、話すたびに期待して、余計につらいかもしれない。



そこも、Rinaの答えだね。すぐに決めなくても、会うことは今は望んでいない、という相手の答えは受け取れるよ。
同じ質問を言い換えて、もう一度YESを探す。その前に、自分へ向けられる問いがあります。相手が今示している関わり方を、自分も選びたいだろうか。



受け取るって、その人の望む距離に、私がずっと合わせることだと思ってた。



Rinaにも、選びたい距離があるよ。「今は話すだけだとつらいから、少し離れたい」と思うなら、その気持ちも大切にしたいね。



離れたら追いかけてくれるかなって、期待はしちゃうと思う。



期待が浮かぶことはあると思うよ。その時、もし追いかけてこなくても、今の自分のためにその距離を選びたいかな。
Rinaはすぐに答えませんでした。相手を動かすために選ぶ距離と、自分が暮らしていくために選ぶ距離。外からは同じように見えても、返事が来ない日の過ごし方が違ってきそうでした。



私、返事を変えてもらえないと、その先には何もない気がしてたんだね。でも、話す関係を選ぶか、休むか、今は離れるか。私も考えるんだ。
好きな気持ちは、選んだ日にきれいに片づくとは限りません。それでも、会わないという意思や、連絡を控えてほしいという希望を越えずに、自分の暮らしを進めることはできます。気持ちが残ることと、同じ働きかけを続けることを、一つにしなくてもよいのです。
相手にも、自分の言葉で座ってもらう
Rinaは最後のひと口を食べました。少し冷めたタルトも、かぼちゃの甘さは変わりません。



今すぐ送る文章じゃなくて、まず自分が言いたいこと、書いてみようかな。



うん。どんな言葉になりそう?



「私は、また一緒にお茶したい。あなたからも誘ってもらえたら嬉しい。あなたは今、私とどんなふうに過ごしたい?」……かな。
Rinaは少し考えてから、続けました。



もし、もう会いたくないって答えなら、寂しい。でも、理由を全部言い負かして会う約束だけ作っても、私が欲しかった時間にはならないんだよね。



Rinaが欲しかったのは、ふたりとも来たくて来る時間だったんだねぇ。
うまく言えれば、必ず近づける。その約束はありません。それでも、自分の願いを自分の言葉で差し出せた時、ふたりで考えるための材料が一つ増えます。相手の答えも並んで、初めて見えてくる景色があります。



相手の席に座って、相手の返事まで私が書いてたのかも。そりゃ、ふたりで話してる感じがしないよね。



自分の席から話して、相手にも座ってもらうんだね。
もし思い当たる会話があったら、相手に送る前に一度だけ、自分が本当は言いたかった願いを書いてみてください。「大切じゃないんでしょ」の手前に、どんな時間を一緒に過ごしたい自分がいたでしょうか。書けた言葉を伝えるかどうかも、今の関係に合わせて選べます。



とりあえず、Emi。私、もう少しここにいたい。あなたはどう?



私も、もう少し話したいよぉ。ただ、先にトレイを戻してくるね。



うん。……こういう返事、嬉しいんだよね。待ってる間に、次のお菓子を選んでおく。
Emiが立ち上がると、入口の小さな鈴が鳴りました。かぼちゃのランタンを見ながら入ってきたのは、えむくんです。
次回からは、えむくんの来店編。「助けたい」「役に立ちたい」の奥にあった、本人も言葉にしていなかった願いを、Emiと一緒に見つめます。











