MkunWorldのカフェでは、かぼちゃの形のお菓子が並んでいました。ハロウィーン衣装のRinaは、トレイを持つEmiに、小さな紙袋を差し出します。
Rina(りな)お菓子をくれなきゃ、いたずらするよ〜。……あ、社員は無料だっけ。それだと、このセリフ使いにくいね。



使ってから気づいたんだねぇ。今日はかぼちゃのタルトもあるよ。Rinaはどれにする?



タルト。これは迷わないんだよね。食べたいって言って、出てきたら嬉しいし。
恋愛も、そのくらい分かりやすければいいのに。
Emiはタルトを一つ、窓際のテーブルへ運びました。
この番外編は、Rinaとえむくんが、それぞれ恋カフェを訪れる全4話の会話劇です。最初のお客さんは、会いたい人に会えたあとも、なぜか寂しさが残ったRinaです。
会えたのに、聞きたかったことが残っていた



たとえばさ。「今度、一緒にお茶しない?」って誘って、「いいよ」って返ってきたら嬉しいでしょ。会えば普通に話せるし、笑ってもくれる。でも、帰ってから、次も私が誘うのかなって思っちゃう。



会っている時間は、どうだった?



楽しかったよ。だからまた会いたいんだよね。楽しくなかったなら、こんなに考えないと思う。
Rinaはフォークでタルトの端を切りました。会えなかった日の話より、会えて楽しかった日の話の方が、説明しにくいこともあります。
嫌なことをされたわけではない。それなのに、何かが足りない。
「会ってくれたんだから、いいじゃない」と自分に言うほど、その足りないものを話しづらくなっていました。



会う時間を作ってくれたのは分かる。でも、「私が会いたいから来てくれた」のか、「向こうも会いたかった」のか。それが分からないんだ。



……うん。私も今、会えたかどうかを聞いていたねぇ。Rinaが知りたかったのは、相手にも会いたい気持ちがあったか、なのかな。



そう。それ。こっちが頼めば応じてくれる、だけじゃなくて。向こうの一日の中にも、私と話したい時間があったら嬉しい。
予定は決まった。でも、知りたかった気持ちは聞けていなかった。
「いいよ」という返事を何度読み返しても、そこに書かれていない部分までは分かりません。
相手からも誘ってほしい。その願いを持つことは、会ってもらった喜びを取り消すことではありません。会えて嬉しかったからこそ、今度は相手の「会いたい」も知りたいことがあります。
寂しさに、自分への答えまでつけていた



でも、何回も私からだとさ。結局、私って、そのくらいの人なんだなって思うんだよね。
Emiは、持ち上げかけたカップを置きました。



そのくらいの人、って?



わざわざ会いたいと思うほどじゃない人。誘われたら会うけど、自分から探すほどじゃない人。……言ってて、ちょっと嫌になってきた。
Rinaが最初に話していたのは、その人から誘われない寂しさでした。けれど、いつの間にか「自分はどんな人か」という話になっています。
誘われなかった。
寂しかった。
私は、求められるほどの人ではない。
心の中では一続きでも、最後の言葉には、その場面からはまだ分からないことまで入っていました。



でも、本当に向こうはそこまで会いたくないのかもしれないよ。気にしすぎってことで終わらせたくない。



そこは確かめたいよねぇ。誘い方が違うのか、今は時間がないのか、望む関係が違うのか。相手について、まだ知らないことがあると思う。
ただ、その答えを聞く前から、Rinaが自分を「その程度の人」にしなくてもいいんじゃないかな。



相手がどう思っているかは分からない。でも、分からないところを、私が私を嫌いになる言葉で埋めてたのか。
寂しさをなくすために、「きっと相手も好き」と信じ込む必要はありません。
相手が実際にどう関わっているかは見ながら、自分について広げすぎた結論には立ち止まれます。
何度も誘いを断られたり、話し合っても望む関係が見つからなかったりするなら、その積み重ねは判断の材料になります。それでも、「この人とは望む関係をつくれない」と「私は誰にも求められない」は、同じ答えではないのです。
好きになってもらえた私まで、消えそうだった


しばらくして、Rinaがフォークを止めました。



私ね、好きって言ってもらえた時、相手のことだけじゃなくて、自分のこともちょっと好きになれたんだと思う。私と一緒にいたい人がいるんだ、って。



嬉しかったんだねぇ。



うん。だから、相手の気持ちが見えなくなると、その時の自分まで消える感じがする。会えなくなるのも寂しいけど、あの嬉しかった私、勘違いだったのかなって。
誰かに愛された喜びが、自分を支えてくれることはあります。
Rinaにとっても、その時間は大切でした。
ただ、相手の返事に「今も会いたい?」だけでなく、「私は好きになってもらえる人?」という問いまで重なると、一つの返事に背負わせるものが大きくなります。
予定が合わないという返事でも、自分がいらないと言われたように感じる。曖昧な言葉のまま終われず、もう一度、もう一度と確かめたくなる。



返事が欲しいというより、あの時みたいに、自分を好きになれる答えが欲しかったのかもしれない。だから、会う約束ができても、また不安になってたのかな。



今の話を聞くと、その二つが重なっていたのかもしれないねぇ。



だったら、恋愛する前に、一人で自分を好きになっておかないとだめってこと?



私、そんな入店条件は置きたくないなぁ。誰かと過ごして、自分の好きなところが増えるのも嬉しいことだと思う。
その人との関係を大切にしながら、自分を見つける場所も、少しずつ増やしていけたらどうかな。
Rinaは、窓に映った自分の衣装をちらっと見ました。



今日のこれ、組み合わせるの結構考えたんだよ。誰にも会わなくても、出かける前からちょっと気に入ってた。



うん。今の「気に入ってた」は、相手の返事を待たなくても、Rinaの中にあったんだねぇ。
恋の寂しさを、衣装一着で埋められるわけではありません。
それでも、好きなものを選んだ自分、誰かと笑えた自分、うまくできなかったけれど試した自分もいます。恋の相手に見えている自分だけが、自分の全部ではありません。
終わったら、嬉しかった時間も嘘になる?



もし、その人に「もう会う関係は続けられない」って言われたら、やっぱり全部だめだった気がすると思う。楽しかったのも、私だけだったのかなって。
Emiはすぐに答えず、少し考えました。



そう言われたら、つらいよねぇ。前のことまで疑いたくなると思う。
Rinaは、あの時、何が嬉しかったんだろう。



話したことを覚えてくれてたとか。くだらないことで一緒に笑ったとか。帰る時、まだ話していたいと思ったとか。
今どうなったかを知っている自分が、過去の一場面ずつに「間違いだった」という札を貼っていく。そうすると、信じた自分を責める理由ばかりが増えてしまいます。
でも、当時のRinaには、当時見えていたものがありました。
その時の嬉しさを受け取ったことと、そのあとも同じ関係が続くかどうかは、別々に考えられます。



嬉しかったのは本当だった、って残したら、また戻りたくなりそう。だから全部嘘だったことにしたくなるのかも。



大切な時間だったと思いながら、今の関係は選ばないこともできるよ。戻らないために、嬉しかった自分まで消さなくてもいいんだと思う。



楽しかった。今は寂しい。これからも同じように続けたいとは限らない。それ、全部あっていいんだね。
実際に嘘があったり、傷つく出来事があったりしたなら、そのことは残して考えます。楽しい思い出があるからといって、我慢して戻る理由にはしません。
ただ、今すぐ「良い恋だった」「悪い恋だった」と、一つにまとめなくてもよいのです。自分が感じた喜びも、後から分かったことも、今の傷つきも、それぞれ置いておけます。
私が直したいことと、私を嫌うこと



私も、寂しくて責めたことがあったなら、そこは見直した方がいいよね。でも、考え始めると「やっぱり私がだめだった」に戻りそう。



どんな言葉を、どう変えたいかまで考えてみるのはどうかな。「私はだめ」で止まると、次に何をしたいのかが見えなくなっちゃうから。



「どうせ会いたいのは私だけでしょ」って言う前に、「私も誘ってもらえたら嬉しい」って話す、とか?



うん。その言葉なら、Rinaが望んでいることが見えるねぇ。
自分を責める言葉は、厳しく反省しているように感じることがあります。でも、「自分は重い」「恋愛に向いていない」と言い続けることから、次の会話が生まれるとは限りません。
何を望んでいたのか。どんな言葉を使ったのか。これから何を伝えたいのか。
そこまで具体的にできると、自分の経験を、次に使える形で持てます。



相手に言われて嫌だったことも、そのまま話していいんだよね。私が変われば全部解決、とは思えないから。



もちろん。自分の言葉を見直すことと、相手に望むことを伝えることは、一緒にできるよ。ふたりのやり取りだから、Rinaだけで完成させなくていいんだよぉ。
タルトを選ぶみたいに、私の願いを知る


Rinaの皿には、タルトが最後のひと口だけ残っていました。



私が欲しかったの、会う日程だけじゃなかったんだね。相手からも会いたいと思われて、その気持ちを一緒に喜びたかったんだ。



うん。今日、最初に話していた寂しさの中から、Rinaの願いが見えてきたねぇ。



それがかなわなかったら、寂しいとは思う。でも、その時に「だから私は価値がない」まで、一緒につけなくてもいいのか。
今日、読んでいて思い当たる場面があったら、「本当は、何が嬉しかっただろう」と一つだけ考えてみてください。
返事が欲しかったのか。相手から誘ってほしかったのか。自分の話を、もう少し聞いてほしかったのか。
その願いに気づくところから、自分が望む関係を言葉にできます。
相手を好きになった自分も、寂しかった自分も、これからの関わり方を考える席にいてよいのです。



タルトは私が欲しいって言えば選べるけど、恋は、相手の欲しいものも聞くんだね。



そうだねぇ。Rinaの願いも聞きたいし、相手が何を思っているかも知りたいね。



……その、聞くってところが難しい。気持ちを知りたいと言いながら、違う答えは聞きたくない時もあるもの。
Emiは、お茶を少し注ぎ足しました。
次回はRina編の後編。「好きだから聞きたい」の中に、欲しい答えを待つ自分がいた時のお話です。自分の願いを残したまま、相手にも気持ちを話してもらう。その続きを、もう少し一緒に考えていきます。











