シリーズ「人を信じたいのに、身構えてしまう」第1話/全4話
親しくなれそうだと思っていた人の、たった一言が気になる。それまで楽しく話せていたのに、急に距離を置きたくなる。
「この人も、結局そういう人なのかもしれない」
そう思い始めると、昨日まで嬉しかった言葉まで、違う意味に見えてくることがあります。気にしすぎなのか。それとも、気づいてよかったのか。自分でも決められないまま、次の連絡をためらう。
今回、AileとLiaが見つめるのは、ひとつの気がかりが「相手の全部」へ広がる瞬間です。無理に人を信じる前に、自分の中で何がつながったのかを、少しだけ見てみます。
楽しみにしていたのは、私だけだった?
昼休みの編集室。Liaは、週末のイベント案内を机に置きました。友人と一緒に行こうと話していた、小さな展示会です。
Lia(りあ)日曜日に行こうって話してたんだけど、さっき『午前中に別の用事を入れたから、午後からでもいい?』って連絡がきたの。



予定の相談がきたんだね。それを読んで、どう感じた?



あ、私は後回しなんだって。楽しみにしてたの、私だけなのかなって思った。
日曜日に行くことは決めていました。でも、待ち合わせの時間は、まだ決めていませんでした。Liaは午前中から会うつもりで、一日を空けていたのです。



時間を決めてなかったのは分かる。でも、先にほかの予定を入れるんだ、って。急に、もう行かなくてもいいかなって思っちゃった。



Liaは、長く一緒に過ごせるのを楽しみにしていたんだね。午後からと言われて、その楽しみが小さくなった感じがしたのかな。



うん。……それだけだったはずなのに、『この人は自分の都合しか考えない人なんだ』ってところまで、考えてた。
出来事から、人柄の結論へ
この場面には、いくつかの違うことが重なっています。
友人は、午後からでもよいかと尋ねた。Liaは、午前中から一緒に過ごすことを期待していた。その違いにがっかりして、自分が軽く扱われたように感じた。
ここまでは、届いた連絡と、Liaの中に起きたことです。
そこから「この人は自分の都合しか考えない人だ」へ進むと、今回の出来事を超えて、相手の人柄全体に結論を出すことになります。



でも、自分の都合を優先したのは、本当じゃない?



午前中に別の予定を入れたのは、そうだね。ただ、『午後からでも一緒に行きたいと思っている』のか、『Liaの都合はどうでもいいと思っている』のかは、その一文だけでは決められないよ。



そっか。予定を入れたことと、私をどう思っているかを、同じ答えにしてたんだ。
気になった出来事を、なかったことにする必要はありません。長く会えると思っていたなら、残念だった気持ちも残してよいのです。
ただ、その気持ちがあることと、相手についての結論が確かであることは、別に置けます。
先に見切れば、傷つかずに済む気がする



まだ分からない、っていうのも落ち着かないんだよね。また期待して、がっかりしたら嫌だし。最初から『そういう人』って思っておけば、もう期待しなくて済む。



期待を手放すと、次に傷つく心配も小さくなる気がするんだね。



うん。信じてから気づくより、今のうちに分かっておいたほうがいいって思う。
Liaにとって、早く結論を出すことには、自分を守る意味がありました。分からないまま楽しみにするより、先に距離を置いたほうが落ち着く。少なくとも、この場面ではそう感じていたのです。
その気持ちを、弱さや意地悪さと決めなくてよいでしょう。
一方で、まだ確認していないことまで悪いほうに決めてしまうと、予定の行き違いを話す機会も、一緒に楽しめたかもしれない時間も、そこで閉じることになります。



距離を置くことは選べるよ。ただ、今のLiaが欲しいのは、その人と離れること? それとも、楽しみにしていた気持ちも知ってもらうこと?



……本当は、一緒に行きたい。午前中から会えると思ってたから、少し残念だったって、分かってほしい。
「もういい」と思ったその下に、まだ残っている願いがありました。気づいたからといって、必ず相手へ伝えなければならないわけではありません。まず、自分が何を望んでいたかを、自分で知ることができます。
昔の嬉しさまで、取り消さなくていい



それでね、前に『一緒に行けるの楽しみ』って言ってくれたことまで、口だけだったのかなって思い始めてた。



今回の連絡を読んで、前の言葉の見え方も変わったんだね。



うん。あのときは嬉しかったのに、今は、嬉しくなった自分が恥ずかしい。
今、相手への見方が揺れていると、過去の出来事も並べ直したくなることがあります。あの言葉も、あの笑顔も、最初から本当ではなかったのではないか。そう考えると、全部に説明がついたように感じるかもしれません。
でも、今回がっかりしたことだけで、過去の言葉が嘘だったと確定するわけではありません。反対に、過去に嬉しいことがあったからといって、今回の違和感を取り消す必要もありません。



『あのときは嬉しかった。今回は残念だった』。今、確かに言えるのは、その二つかもしれないね。



嬉しかった自分まで、間違いだったことにしなくていいんだ。



うん。今回の気がかりも残したまま、あの時間の嬉しさも持っていていいよ。
「全部」を、気になった一か所へ戻す
Liaはノートを開き、書きかけた「自分勝手な人」という言葉の横に、小さく問いを書きました。
私は、何が気になった?



相手の全部じゃなくて……会う時間のつもりが違っていたこと。私は一日空けていたのに、相手はそうじゃなかったこと。



そこまで戻ると、確かめたいことも見つけやすくなるね。
「全部信じられない」と感じたとき、無理に「信じよう」へ反転させなくても構いません。まず、気になった一か所を具体的にします。
言った時刻に来なかった。話の途中で笑われた。頼んでいた作業について連絡がなかった。何を見聞きして、どこで自分が困ったのか。相手の性格を表す言葉ではなく、その場で起きたことへ戻してみます。
そして、その後ろに、自分の気持ちを一つ置きます。「待っていて心細かった」「大事な話だったので悲しかった」「予定が立てられず困った」。



今回は、『午前中から会えると思っていたから、少し残念だった』かな。それなら、私にも何の話か分かる。



うん。『あなたはいつも自分勝手』より、どこがすれ違ったのかが見えるね。
伝えるかどうか、どんな言い方にするかは、その次に選べます。今日の時点では、心の中にある「全部」を、一つの出来事へ戻せたら十分です。
小さく見ることと、軽く扱うことは違う



でも、ひとつずつに分けていたら、ひどいことをされても『今回だけ』って思い続けない?



そこは、積み重なりも見たいね。同じことが続くのか、伝えた後にどう対応するのか。出来事を具体的にするのは、問題を小さく見積もるためではないよ。
一度の時間の行き違いと、約束を繰り返し破られることは、同じではありません。困っていると伝えたときに相談してくれるのか、毎回こちらの責任にされるのかも、関係を考える材料になります。
また、脅されたり、秘密を勝手に公開されたりしたなら、一度の出来事でも距離を置く理由になります。何度も傷つくまで確かめる必要はありません。
大切なのは、「一回だから大丈夫」とも、「一回あったから全部だめ」とも、回数だけで決めないこと。起きたことの内容と影響、その後の対応を見ます。



今回は、時間をまだ決めていなかった。私の希望も言っていなかった。だから、まずはそこを話せそう。



うん。今分かっていることに合う大きさで、次を選べるね。
信じるか、切るかを、今日決めなくても
Liaは、友人への返事を考えました。



『午後からなんだね。私は午前中から一緒に回れると思ってたから、少し残念。でも展示は一緒に見たいな。何時ごろなら会えそう?』って、聞いてみようかな。



楽しみにしていた気持ちも、今の希望も入っているね。
その返事で、すべてがうまくいくかは分かりません。友人にも都合があり、Liaが望む時間は取れないかもしれません。話してみて、今回は見送ろうと決めることもあるでしょう。
それでも、相手の全部を決める前に、自分の希望を置いてみることはできます。そのやり取りで分かったことから、次の距離を考えていけます。



私、人を信じられるようにならなきゃって思ってた。でも今日は、この人の全部を決めなくてもいいんだね。



うん。気になったことを見ながら、自分がどうしたいかも聞いてみよう。
ひとつ気になると、全部が信じられなくなる。そのときは、次の一文だけを書いてみてください。
「私は、相手の__という言葉・行動が気になっている。」
空欄には、「性格が悪い」「大切にしてくれない」という結論より、実際に見聞きした言葉や行動を入れます。そこに自分の気持ちを添えれば、何を確かめたいのか、何から離れたいのかも、少し見えやすくなります。
今日、相手を信じ切れなくても大丈夫です。自分が感じた違和感を大切にしながら、まだ分からないところを残しておく。その選び方もあります。
次回は「警戒していることと、確かめたことは違う」。身構えた気持ちを否定せず、想像だけで相手を決めないための確かめ方を、AileとLiaが考えます。











