会いたいから誘った。楽しんでほしくて、予定も考えた。
最初は嬉しかったのに、いつの間にか、自分が動かなければ何も始まらないように感じている。
好きで始めたことなら、疲れたと言ってはいけないのでしょうか。
Kaiのストレッチ、第12話です。前回は、自分なりの愛情と、相手が嬉しい関わり方を考えました。
今回はラウンジを出て、MkunWorldトレーニングジムへ。バスケットボールを楽しむKaiとRinaが、二人の時間を誰が、どんなふうにつくっているかを見つめます。
今日は、私もシュートしたい

大きな窓に沿って、明るい木目の床が広がっていました。MkunWorldトレーニングジムのバスケットコートです。白いラインの先には、透明なバックボードと赤いリングが見えます。
ラウンジでカップを置いていた二人の手には、今日はタオルとボールがありました。
Rina(りな)今日は、お茶を飲みながら考えるだけじゃないよ。ちゃんと動きます!



張り切ってるね。準備してくれてありがとう。
Rinaはスポーツウェアの裾を整え、弾ませたボールを両手で受け止めました。左右の三つ編みが肩の前で揺れます。Kaiも荷物をベンチに置き、軽く体を動かしながらコートへ入りました。



コートの時間も確認したし、ボールも借りたし、あとで寄れそうなお店も調べたの。だから、えっと……。



うん?



今日は、私もいっぱいシュートしたい。準備して、ボール拾って、最後に片づけて終わる人にはなりたくないです。
少しふざけた言い方でしたが、Rinaは笑って流さず、Kaiを見ていました。



もちろん。一緒にやろう。片づけも僕がやるよ。お店はまだ決めていないなら、休憩のときに僕も候補を見たい。



あ、それは助かる。なんだか私、来る前にもう一回分、運動した気がする。



予定を考える方で、かな。
Rinaはうなずき、Kaiへボールを渡しました。二人は近くから、交代でシュートしてみることにしました。最初の一本はリングに当たり、明るい音を立てて戻ってきます。
「自分ばかり」の中には、いろいろな仕事がある


何本か投げたあと、Kaiがボールを拾う間に、Rinaは手のひらを見つめました。久しぶりのボールの感触を確かめるように、指を開きます。



二人で会うときって、会っている時間だけじゃないんだね。いつにするか聞いて、場所を探して、返事を待って。



決まるまで考え続けている時間もあるね。



相手が楽しそうなら嬉しい。でも、次も全部私かなって思ったら、急に重くなることがある。



誘うことなのか、細かい準備なのか、それとも楽しんでいるかを気にし続けることなのか。どこが重いかで、変えたいところも違いそうだね。
恋人との時間にも、会う日を提案する、店を予約する、移動を調べる、予定が変わったときに組み直す、といった仕事があります。
それに加えて、会話が途切れないように話題を探したり、相手の機嫌を気にしたりしていることもあります。目に見える一つの行動だけでは、負担の全体は分かりません。



「私は三回誘った。あなたは一回」だけだと、見えていないこともあるんだね。



うん。でも、数えたくなるくらい疲れているなら、その疲れは聞きたい。一回ずつ同じにしなくても、いつも片方に偏っているところは相談できるから。
Kaiが渡したボールを、Rinaが胸元で受け止めました。
「自分ばかり」を、ただの考えすぎとして片づける必要はありません。何を担い、何に疲れ、何を相手にもしてほしいのか。そこまで分けると、話せることが見えてきます。
「何でもいい」は、任せたい人には重くなる





「好きなところでいいよ」って、優しさで言ってくれることもあるよね。



あるね。相手の希望を優先したいと思って。



でも、私が欲しいのは、決めていい許可じゃなくて、一緒に考えてくれる人だったりする。
Kaiはボールを抱えたままうなずきました。Rinaはベンチの方へ歩き、水を一口飲みます。



さっきのお店もそうだね。「Rinaの好きなところで」と言えば、また探して決めるところまで任せることになる。



そうそう。私が行きたいお店を決めている日なら嬉しいけど、今日は、もう少し一緒につくりたい。
Kaiは、自分も軽く食事をしたいと伝えました。Rinaは、運動のあとだから座ってゆっくりしたいと答えます。
休憩中にKaiが候補を二つ探し、二人で選ぶことにしました。Rinaは、調べかけていた画面を閉じました。



「もうちょっと考えてよ」より、今日お願いしたいことが分かったね。



僕も何を引き受けるか分かった。探すところまでやるよ。
「手伝うよ」と言いながら、何をするかの指示を毎回相手に任せていると、考える負担は残ることがあります。
場所を探して候補を出す。予約を確認する。変更があれば自分から知らせる。引き受けた部分をどこまで進めるかも、必要に応じて具体的にします。
引き受けた人が、動ける場所を残す


コートへ戻り、今度はRinaがボールを投げました。リングに届かず落ちたボールを、Kaiが追いかけます。
Rinaも一歩踏み出しましたが、Kaiの「取るよ」という声に、足を止めました。



今、つい一緒に追いかけちゃった。



次の一本、待ってて。
戻ってきたボールを受け取ると、Rinaはもう一度リングを見上げました。今度はバックボードに当たり、ボールがネットを通りました。



入った! ……私、任せるって言っても、先にやっちゃうことがあるかも。待っているより自分でやった方が早いから。



急いでいると、そうしたくなるね。でも、僕が引き受けたところまで全部やり直したら、Rinaは休めなくなる。



お店も、候補が来る前に私が予約しちゃったら、お願いした意味がなくなるね。



うん。こだわりがあるところは先に教えてもらって、ほかは任せてもらえると動きやすい。分からないところは僕から聞くよ。
任せる側は、希望や必要な条件を伝え、相手が引き受けた範囲を進める時間を残します。引き受ける側は、できないと分かったら知らせ、黙って元の人へ戻しません。
ただし、役割が偏った理由を、何でも「先回りした人が悪い」にする必要はありません。繰り返し放置されたために、自分で動くしかなかった場合もあります。二人の間で、実際に何が起きているかを見ます。



任せる練習だけじゃなくて、引き受ける方にも、やることがあるんだね。



そうだね。二人で変えていく話だから。
同じ量でなくても、二人が関わっていると分かる


休憩に入り、Kaiが二つの店の候補を見せました。一つは近くのカフェ、もう一つは少し歩いた先の定食屋です。
Rinaは今の空腹具合を考え、定食屋を選びました。Kaiは営業時間と行き方を確認し、コートの残り時間を見ます。



ありがとう。今日は、考えるのを少し休めた。



僕も食べたいものが見つかったよ。あと少しやったら、片づけて行こう。
Rinaがここへ来る準備をし、Kaiが食事の場所を探す。それで負担がぴったり半分になったかは、計算できません。
けれど、Rinaには、二人の時間を自分だけで進めている感じが少し減っていました。Kaiも、自分の希望を出して参加していました。



同じ回数、同じことをしてもらいたかったわけじゃないんだね。今日、Kaiも一緒に考えてくれたのが嬉しい。



得意なことや余裕も違うからね。片方が多く担う日があっても、もう片方も気にかけて、できる形で関われると思う。
相互性は、毎回同じ量を返すことだけではありません。相手の負担に関心を持つ、自分から提案する、できないときには別の案を考える。そうした関わり方にも表れます。
同時に、「ありがとうと言っているから」で、続けられない負担が消えるわけでもありません。感謝と、負担をどう変えるかは、両方話せます。



お願いしても、「今度ね」ばかりで、何も変わらなかったら?



自分がもっと上手に頼めばいい、と引き受け続けなくてもいいよ。何度か話しても負担が変わらないなら、今までと同じ準備はできないと伝えたり、会い方を変えたりできる。



相手が慌てて動くか、黙って試すのとは違うんだね。



うん。「次は全部の手配はできない。どう分けるか相談したい」と、自分の限界を伝える。相手がどう関わるかも見ながら、自分が続けられる形を考えるんだね。
今日のストレッチ|自分も楽しむ側へ戻る


今日は、最近二人で過ごした時間を一つ思い出してみます。
その時間のために自分がしたこと、相手がしていたと分かること、今の自分には重かったことを、短く書きます。見えていないことは推測で埋めず、分からないまま残します。



相手が何もしていないと決めるためのリストじゃなくて、何を相談したいか見つけるんだね。



そう。そして、自分が何を楽しみたかったかも入れたい。二人でいるのに、ずっと運営する人になっていないか。
そこから、次に変えたいことを一つ選びます。
「次の外食は、候補を探すところからお願いしたい。私は、ゆっくり話しながら食べたい」
「毎回こちらから日程を聞くのは疲れてきた。あなたからも会いたい日を提案してもらえると嬉しい」
依頼だけでなく、一緒にどんな時間を持ちたいかも伝えます。



今日の私は、シュートしたかった。一緒に笑って、ちょっと悔しがって、お腹をすかせたかった。



その時間、もう少しあるよ。あと一本ずつ、どう?
Rinaはうなずき、ボールを抱えて立ち上がりました。
好きで始めたことでも、疲れたら分担を変えていい。相手が喜ぶことを考えながら、自分も楽しむ側にいていい。
誰の愛情が多いかを決めるより、二人がどう関わり、続けられるかを確かめる。それが、今日のストレッチです。
最後のシュートは、リングの縁を回って外へ落ちました。Rinaが両手を上げて悔しがると、Kaiも同じ方向を見上げました。



今の、入ったと思ったのに!



僕も。惜しかったね。
Kaiがボールを拾い、返却用のかごへ運びます。Rinaは二人のタオルをまとめ、自分のボトルをバッグへしまいました。
今度は、どちらかが全部終えるのを待つことなく、二人で出口へ向かいます。窓の外には、夕方の灯りがつき始めていました。
役割を分けられても、好きな人の前では、ついよく見せようと力が入ることがあります。次回は「一緒にいるのに、気を張ってしまう|好きな人の前で、力を抜く時間」。楽しませることに頑張りすぎず、自分もくつろげる関わり方を考えます。












