恋人のことは好き。週末に会うのも楽しみ。
それなのに、別の人の名前を見つけると、少し嬉しくなる。
あの人は今日は来るだろうか。次は何を話せるだろう。
そう考えていた自分に気づいて、慌てて気持ちを引っ込めたくなる。
Kaiのストレッチ、新しい連載の第1話です。今回の問いは「なぜ恋人がいるのに、他の人が好きになってしまうのか?」。KaiとRinaが、架空の写真サークルの場面から、心が動く瞬間を考えます。
恋人への好きが、なくなったわけではない

夕方のラウンジ。Rinaはテーブルに、秋の散歩で撮った写真を並べていた。葉っぱの写真が三枚、なぜか鳩のおしりが一枚。Kaiが最後の一枚を指さす。
Kai(カイ)これは、振り向いてもらえなかったんだね。



そう。いい顔してたのに、撮ったらもう後ろ向き。……ねえ、Kai。今日は写真から、ちょっと違う話をしてもいい?



うん。



例えば、恋人がいる人が写真サークルに入ったとするでしょ。恋人とは仲がいい。でも、サークルのある人が気になり始めた。そういうときって、恋人への好きが減ったからなのかな。



その人は、恋人といるときにどう感じているんだろう。



会いたいし、一緒にいると楽しい。別れたいとも思ってない。なのに、その人が来る日は、いつもより服を選んでしまう。
Rinaは、机の上の二枚を少し離して置いた。
片方には、一緒に過ごしてきた恋人。もう片方には、最近知り始めた人。どちらにも、心が動いた時間がある。



それなら、今分かっているのは、恋人への好きがあることと、別の人にも惹かれていることだね。片方が嘘だった、と決めるところから始めなくてもよさそうだ。



どっちが本物か、すぐ決めたくなるけどね。



その前に、その人のどんなところで嬉しくなったのか、聞いてみたいな。
「恋人がいないから」だけで、人を好きになるわけではない


Rinaは、サークルの場面をもう少し思い浮かべた。
初めて会った日は、感じのいい人だと思った。二回目には、その人の写真を見るのが楽しみになった。三回目には、自分の写真を見せる前に、何と言ってくれるだろうと考えていた。



写真の好みが似てるの。でも、同じものばかり撮るわけじゃない。自分なら通り過ぎる場所で、面白いものを見つける人。



その人の見方を、もっと知りたいんだね。



あと、褒め方が好きなのかも。「うまいね」だけじゃなくて、「この影を残したところ、いいね」って言ってくれる。
何となく居心地がいい、だけではなかった。
その人が何を見て、どう言葉にするか。その具体的なところに、心が動いていた。



恋人がいるかどうかとは別に、その人に出会って初めて知った魅力があるんだね。



恋人に足りないものを、探しに行ったわけじゃなくても?



うん。この場面なら、写真を楽しみに行って、その人のことも気になった、と考えられるよね。もちろん、寂しさがきっかけになる場合もあるだろうけど。
誰かに惹かれた理由を、今の恋人の不足だけで説明しようとすると、まだ確かめていない欠点まで探してしまいます。
相手の声が好きだった。話の間が心地よかった。取り組み方に憧れた。自分の工夫を見つけてもらえた。
まずは、自分が経験した場面から考えてみる。その方が、「誰のせいか」よりも、「何が嬉しかったか」が見えてきます。
あの人といるときの、自分も好きだった





その人の前だと、写真の話が止まらなくなるんだって。普段は、そんなに自分から話す方じゃないのに。



話している自分は、どんな感じなんだろう。



楽しそう。失敗した写真も見せられるし、次はこう撮りたいって、まだできてないことまで話せる。



相手の魅力と、一緒にいるときの自分の楽しさ。両方ありそうだね。
Rinaは鳩の写真を手に取った。
これを見せたら笑うだろうか。惜しかったねと言うだろうか。自分もこんなのを撮った、と別の写真を見せてくれるだろうか。



その人を思い出すと、次の会話まで浮かぶんだ。



そこに、自分も参加したい時間があるんだね。
この架空の人にとって、気になった相手は、褒め言葉をくれる人というだけではありません。
見つけたものを持ち寄りたい人。自分も相手の写真を見たい人。うまく撮れなかった日にも、続きを話したい人です。
「認められたかっただけ」と小さくまとめる前に、その人自身への関心も確かめてみる。
どんな見方が好きなのか。何を聞いてみたいのか。一緒にいると、自分は何をしたくなるのか。
好きの中身は、一語では収まらないことがあります。
出会う場所が増えると、知る機会も広がる





写真サークルって、今は近所だけじゃないよね。SNSで作品を見て、コメントして、オンラインの集まりで話すこともできる。



同じ職場や近所にいなくても、好きなものを通して出会えるね。



最初は写真を見てただけなのに、文章の感じとか、話すときの笑い方とかも知っていく。
SNS、趣味のコミュニティ、配信、ゲーム。恋人探しを目的にしていなくても、誰かの言葉や人柄に触れる場所はあります。
作品への関心から、その作品を作る人への関心へ。集まりを楽しみにする気持ちから、ある人に会えることを楽しみにする気持ちへ。今回の場面では、そんな変化が考えられます。



ただ、触れる機会が多いことと、相手の全部を知っていることは同じではないね。



写真の話をしてるときはよく知ってる。でも、疲れた日とか、意見が合わないときは、まだ知らない。



今見えている魅力は、大切にしていい。そのうえで、まだ知らないところもある。それくらいの見方ができるとよさそうだね。
新しく知った魅力があることと、その人が自分を何でも満たしてくれることは、別の話です。
「この話を一緒にできて嬉しい」。今日は、そこまでをそのまま受け取ってみる。まだ経験していない未来まで、嬉しさの証明に足さなくてもよいのです。
惹かれたことだけで、今の恋を採点しない


交際相手以外への好意は、研究でも扱われています。2025年の追跡研究では、恋人以外に惹かれている人のうち、全調査に回答し同じ交際を1年間続けた172人を分析しました。現在の関係に悪化が見られない人もいれば、満足度の低下と関連する人もいました。
対象が限られた観察研究で、因果関係や誰にでも当てはまる結果は示せません。それでも、「ほかの人に惹かれたら、今の恋愛はもう終わっている」という一つの説明に、全員を当てはめない手がかりになります。
出典:O’Sullivan・Belu・Tramonte(2025), Personal Relationships(https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/pere.70033)。



好きになったら必ずうまくいかなくなる、でもないし、何も変わらないから大丈夫、でもないんだね。



自分の今の関係で、何が起きているかを見る必要はあるね。恋人と話す時間はどうなったか。会ったとき、どう感じたか。



気になった自分を責めるだけだと、そこまで見なくなるかも。



うん。それに、気持ちを認めることと、これからどんな行動をするかは、分けて考えられる。
好きだと気づいたからといって、すぐ告白する、関係を進める、恋人と別れる、と決まるわけではありません。
自分が選ぶ行動には、今の恋人との約束や、気になる相手の意思も関わります。気持ちを理解する時間は、その先の選択を丁寧にするためにも使えます。
今日のストレッチ|心が動いた一場面を、言葉にする


今日は「結局、どちらが好きなのか」の答えを急ぐ代わりに、心が動いた一場面を思い出してみます。
相手の名前を書く必要はありません。自分だけのメモに、三つの短い文を置いてみてください。
一つ目は、起きたこと。
「写真の影の残し方を、いいねと言ってくれた」。
二つ目は、そのときの自分。
「そこを見てくれたのが嬉しくて、次の写真も見せたくなった」。
三つ目は、今分かっている望み。
「あの人の写真も見たいし、また話したい」。



「私はひどい人だ」って書くより、自分のことが分かるね。



そうだね。相手が自分を好きかどうかまで、ここで決める必要もない。自分に起きたことを、自分の言葉にしてみる。
恋人への気持ちも確かめたいなら、別の一場面を書いてみます。
二人で笑ったこと。最近寂しかったこと。次に一緒にしたいこと。
どちらかを勝たせる表ではなく、それぞれの時間で自分が何を感じているかを知るためのメモです。



なぜ恋人がいるのに好きになるのか、って、恋人がいることだけから答えを探してたんだなあ。



その人との間で、何を嬉しく感じたか。その人自身の何を知りたくなったか。そこにも理由がありそうだね。
恋人への好きが残っている自分も、別の誰かに心が動いた自分も、まずは今の自分として見てみる。
何かが足りないからなのか。その人ならではの魅力に惹かれたのか。一緒に過ごす自分が好きだったのか。いくつか重なっているのか。
誰にでも一つの原因を当てはめるより、自分の経験を具体的にするところから始められます。
Rinaは写真を重ねようとして、鳩の一枚だけを残した。



ねえ。最初は「また写真を見たい」だったのに、いつから「この人と話したい」に変わるんだろうね。



今度は、その間にあった小さな出来事を、見てみようか。
気持ちに気づいた今日は、人生の結論を出す日でなくてもいい。
「私は、あの時間が嬉しかった」。その一文が書けたら、今日のストレッチはそこまで。自分を裁く言葉の代わりに、自分を知る言葉が一つ増えました。
次回は「『また話したい』は、いつから『好き』になった?」。小さな嬉しさが、その人を待つ気持ちへ変わっていく時間を考えます。












