支配的に生きるとは?「ちゃんとしてる人」が恋愛で感情的になるとき

普段はとても常識的。

時間を守る。
約束を守る。
人に迷惑をかけないようにする。

「普通はこうするよね」
「それは失礼だよね」

そんな感覚も、きちんと持っている。

なのに恋愛になると、

返事がないだけで何度もスマホを見る。

相手が何をしているのか知りたくなる。

いつもなら言わないようなことを言ってしまう。

何度も連絡してしまい、あとから自分でも驚く。

「私、こんな人じゃなかったのに」

そんな矛盾が起こることがある。

でも、本当にその人は突然「非常識な人」になったのだろうか。

もしかするとそこには、

相手を支配したい気持ちとは少し違う、

「予測できない未来を減らして、安心したい」

という心の動きが隠れているのかもしれない。

お昼休み。

編集室の窓際で、Liaがアイスコーヒーのストローをくるくる回していた。

Lia(りあ)

ねぇ、ちょっと不思議じゃない?

Rina(りな)

なにが?

Rinaはサンドイッチを片手に顔を上げる。

Lia(りあ)

普段すっごく常識的でさ。マナーも守るし、時間にもちゃんとしてるし

『普通こうするでしょ』『それは失礼でしょ』っていうのを大事にしてる人が……

少し考えてから、Liaは続けた。

Lia(りあ)

恋愛になると、突然めちゃくちゃになったりするの。

Rina(りな)

あー……いる。

何回も電話しちゃったり。返事ないのにLINE送っちゃったり。

普段なら絶対そんなことしないのにね。

向かいでコーヒーを飲んでいたKaiが、スマホを伏せた。

Kai(カイ)

それ、矛盾しているようで、根っこは同じなのかもしれない。

Lia(りあ)

同じ?

Kai(カイ)

うん。

そもそも“支配”って、人に命令することだけじゃないから。


目次

支配したいのは、相手じゃない?

Kai(カイ)

たとえばさ。

予定通りに仕事が進んでる。家族もいつも通り。恋人からも、だいたいいつもの時間に返信が来る。

そういう時って安心するでしょ?

Rina(りな)

するする。

Kai(カイ)

じゃあ突然、いつもの時間になっても返信が来なくなったら?

Rina(りな)

……ちょっと不安になる。

Kai(カイ)

そう。

そこで、
「忙しいのかな」
「今日はそんな日なのかも」
と、いったん置いておける人もいる。

けれど人によっては、
「返信がないこと」以上に、
理由が分からないこと。

この先どうなるか分からないこと。

自分では状況を決められないこと。

そんな「予測できない状態」そのものが、強い不安につながることがある。

Lia(りあ)

分からないまま待つのが、つらいんだ。

Kai(カイ)

そうかもしれない。

だから、確認したくなる。

何してるの?
どうして返事くれないの?
何か怒ってる?
私のこと嫌いになった?
次はいつ会えるの?
約束したよね?

質問そのものだけを見れば、
相手を動かそうとしているようにも見える。

相手の行動を確認し、
説明を求め、
安心できる答えを出してもらおうとしているからだ。

Rina(りな)

確かに、受け取る側からすると『コントロールされてる』って感じることもありそう。

Kai(カイ)

うん。それはあると思う。

ただ、そのさらに奥を見ると、少し違う景色が見えることもある。

相手を自分の思い通りにしたい。

それだけとは限らない。

本当に欲しかったのは、

「嫌われていない」と分かる未来。
「関係は壊れない」と分かる未来。
「明日も大丈夫」と確信できる未来。

つまり、

相手を支配したいというより、

自分が不安にならない未来を確定させたい。

そんな心の動きが隠れている場合もある。

Lia(りあ)

支配したいのは“人”じゃなくて、“未来”なのか。

Kai(カイ)

そう考えると分かりやすいこともあるね。

もちろん、理由が不安だからといって、相手の自由を奪っていいわけではない。

何度も連絡することや、行動を細かく確認することを正当化する話でもない。

ただ、
「どうしてこんなことをしてしまうんだろう」
を理解するとき、

行動だけを見て「支配的な人」と決めてしまうより、
その人が何を確定させたかったのかを見る。

そこから考えられることもある。


「ちゃんとしなきゃ」も安心する方法になる

Lia(りあ)

じゃあさ。

『常識的でなきゃ』『ちゃんとしなきゃ』『こうあるべき』っていうのも、同じところにつながることがあるの?

Kai(カイ)

場合によってはね。

もちろん、
常識を守ることが悪いわけではない。

マナーも、約束も、社会のルールも大切だ。

むしろ人と人が安心して暮らすために、ルールはとても役に立つ。

ただ、
「これを守っていれば大丈夫」
という気持ちが強くなりすぎると、
ルールの役割が少し変わることがある。

人と暮らすための道具だったものが、
自分の不安を減らすための柵になる。

ちゃんとしていれば嫌われない。

迷惑をかけなければ責められない。

約束を守っていれば見捨てられない。

正しく振る舞っていれば、大きな問題は起きない。

「こうすれば大丈夫」
という決まりが増えるほど、
世界は少し予測しやすくなる。

Lia(りあ)

ちゃんとすることで、自分を守ってる部分もあるのか。

Kai(カイ)

そういうこともあると思う。

それ自体は、おかしなことではない。

人は誰だって、
できることなら失敗したくない。

嫌われたくない。

傷つきたくない。

だから自分なりの「安全な生き方」を覚えていく。

けれど、
ここで恋愛という、とても厄介なものが入ってくる。

Rina(りな)

厄介って言った。

Kai(カイ)

だって恋愛って、かなり予定通りにならないでしょ。

Rina(りな)

それはそう。

好きになる相手を、完全には選べない。

自分が好きだからといって、同じ量だけ好きになってもらえるとは限らない。

返信が来る時間も決められない。

会いたいタイミングも一致するとは限らない。

昨日まで仲が良かったからといって、
今日も同じ気持ちでいてくれる保証はない。

自分が誠実に接したからといって、
相手が望んだ通りに動いてくれるわけでもない。

恋愛には、
「自分が正しくやれば、正しい結果が返ってくる」
という公式がない。

Lia(りあ)

ちゃんとしてれば大丈夫、が通用しにくいんだね。

Kai(カイ)

うん。

自分では決められないものが、すごく多い。


ルールを守ることと、ルールにしがみつくこと

ルールを大切にすることと、

ルール通りでなければ不安になることは、

似ているようで少し違う。

たとえば、

「連絡できない時は一言伝えよう」

という約束がある。

約束を大切にすることは、関係を守る助けになる。

でも、

「連絡がない。約束と違う。つまり私は大切にされていない」

まで一気に進んでしまうと、

ひとつの出来事から未来全体を確定したくなる。

Rina(りな)

返信ひとつが、関係全部の判定になっちゃう感じ?

Kai(カイ)

そう。

本当はまだ分からないことがたくさんあるのにね。

仕事が長引いたのかもしれない。
疲れて寝ているのかもしれない。
一人になりたい日だったのかもしれない。
単純にスマホを見ていないだけかもしれない。

もちろん、本当に関係について考えている可能性だってある。

まだ何も分からない。

けれど、
その「分からない」が苦しい。

だから、
早く意味を決めたくなる。
早く答えが欲しくなる。
早く安心できる状態へ戻したくなる。

Lia(りあ)

だから確認が増えていくのか。

Kai(カイ)

そういう流れはあり得るね。

ルールそのものが問題なのではない。

「ルールから外れた瞬間に、安心まで全部なくなる」

という状態になると、苦しくなりやすい。

ルールは関係を守るために使える。

でも、
未来のすべてを保証してくれるものではない。


感情がルールを飛び越えるとき

Rina(りな)

じゃあ、普段ちゃんとしてる人ほど、恋愛で耐えられなくなることもあるのかな。

Kai(カイ)

可能性としてはあると思う。

普段は、
「迷惑をかけちゃダメ」
と思っている。

なのに不安になると、何度も連絡する。

普段は、
「人の自由を尊重しなきゃ」
と思っている。

なのに恋人が誰と何をしているのか知りたくなる。

普段は、
「感情的になるのはよくない」
と思っている。

なのに突然、泣いたり怒ったりする。

そして落ち着いたあと、
自分自身の行動を見て驚く。

「なんで私、あんなことしたんだろう」

「こんな自分じゃなかったのに」

「また嫌われるようなことをしちゃった」

そうやって、今度は自分を責め始める。

Lia(りあ)

非常識な人になったわけじゃないんだね。

Kai(カイ)

うん。

少なくとも、その一回の行動だけで、その人全部を決める必要はないと思う。

その瞬間、“正しくありたい自分”より、“安心したい自分”の方が大きくなった、と考えることもできる。

Rina(りな)

頭では分かってるんだよね。

送らない方がいいとか、待った方がいいとか。

Kai(カイ)

そう。でも感情が大きくなると、“正しい行動を続けること”より、“今すぐこの不安を終わらせること”が優先されることがある。

これは、

「本当は支配的な性格だった」

と単純に片づけるより、

自分がどんな時に「分からない状態」に耐えにくくなるのかを見る手がかりになる。


安心を相手に作ってもらい続けると苦しくなる

Rina(りな)

でも、不安になったら相手に聞きたくなるよ。

Kai(カイ)

うん。聞いちゃダメって話でもないよ。

大事なのは、安心を作る方法が“相手を動かすことだけ”になっていないかだと思う。

不安になる。

だから返信してもらう。

返信が来て安心する。

また不安になる。

また確認する。

そのたびに相手が応えてくれれば、一時的には落ち着くかもしれない。

でも、
安心するために毎回「相手が予定通り動くこと」が必要になると、
相手の行動が少し変わるたびに、自分の安心まで揺れるようになる。

Lia(りあ)

相手が安心装置みたいになっちゃうんだ。

Kai(カイ)

極端になれば、そういう形にもなり得るね。

相手には相手の生活がある。
疲れている日もある。
仕事に集中したい日もある。
誰とも話したくない時間もある。
気持ちが揺れることだってある。

そこまで含めて「相手」という一人の人間だ。

相手を大切にするということは、
自分を不安にさせない存在でいてもらうことだけではない。

自分とは違う都合や気持ちを持つ自由も含めて、
相手として見ることでもある。

Rina(りな)

でも、それって結構こわいよね。

Kai(カイ)

うん。こわいと思う。

好きな人ほど、自分では決められない部分が増えるから。

Lia(りあ)

だからこそ、“相手を自由にする”だけじゃ足りないんだ。

自分の中にも、不安を置いておける場所が必要なんだね。


コントロールを手放すとは

Rina(りな)

じゃあ、どうすればいい?

ルールを全部捨てる?

Lia(りあ)

それも違うと思う。

少し考えてから、Liaは笑った。

Lia(りあ)

たぶんね。

“予定通りにする力”をもっと強くするんじゃなくて、“予定通りじゃなくても大丈夫な自分”を増やすんじゃないかな。

返信が遅い。

すぐに意味を決めず、
「何かあったのかもね」
と少し置いてみる。

誘って断られた。

「嫌われた」に広げる前に、
「今日はNOだったんだな」
で一度止めてみる。

誰かが自分と違う考えを持っている。

すぐに説得したり直したりせず、
「この人はそう考えるんだ」
と、その違いをそのまま置いてみる。

予定が崩れた。

失敗した。
思っていた返事が来なかった。
そこで全部を立て直そうとせず、
「じゃあ今できることは何だろう」
と考える。

Kai(カイ)

コントロールを手放すって、何も考えずに生きることじゃないんだよね。

Rina(りな)

何が起きても平気になることでもない。

Lia(りあ)

うん。

不安になってもいい。
寂しくてもいい。
予定と違って、少しイライラしてもいい。

大切なのは、

その感情を消すために、
世界全部を自分が安心できる形へ直そうとしなくてもいい、

という余白を持つことなのかもしれない。


「動かして」ではなく「私はこう感じてる」

Rina(りな)

でもさ。寂しい時に我慢するだけになるのも違うよね?

Lia(りあ)

うん。それは違う。

コントロールしないことは、

何も言わないことではない。
寂しいのに笑っている必要もない。
不安なのに平気なふりをする必要もない。

ただ、

相手を動かすための言葉と、
自分の気持ちを伝える言葉は、
少し違う。

「なんで返信してくれないの?」

ではなく、

「ちょっと寂しくなってた」
「普通は連絡するでしょ?」

ではなく、

「連絡がないと、私は少し不安になるみたい」
「絶対こうして」

ではなく、

「私はこうしてもらえると嬉しい」

そんなふうに、
相手に答えを強制するのではなく、
自分の気持ちとして渡してみる。

Rina(りな)

気持ちは隠さない。でも、相手の答えまでは決めない。

Kai(カイ)

うん。

自分の気持ちを伝えることと、相手の行動を決めることは別だからね。

Lia(りあ)

それなら、“自分を我慢させる自由”じゃなくて、お互いが動ける余白になるね。


予定通りじゃない日に見えるもの

ちゃんとしていることは、悪くない。

約束を大切にすることも、

人に迷惑をかけないように考えることも、

とても大切だ。

ただ、

ちゃんとしていないと愛されない。

正しくなければ関係が壊れる。

相手が予定通り動かなければ安心できない。

そこまで背負うようになると、

「ちゃんとすること」は少しずつ自分を縛る柵にもなる。

そして恋愛のように、

自分では決められないものが多い関係に入った時、

その柵だけでは守れなくなる。

だから必要なのは、

未来を完璧に予測できる力ではないのかもしれない。

予測できないことが起きても、

その都度、自分で考えられること。

不安になった自分を責めず、

すぐに相手を動かす前に、

「私は今、何を怖がっているんだろう」

と一度だけ自分へ戻れること。

そして必要なら、

自分の気持ちを自分の言葉として伝えられること。

それが少しずつ、

「予定通りじゃなくても大丈夫」

を増やしていく。

Liaは残っていたアイスコーヒーを一口飲んだ。

お昼休み終了まで、あと7分。

今日も午後の予定はびっしりだった。

きっと予定通りにいかないこともある。

Lia(りあ)

まあ、その時考えよっか。

Rina(りな)

出た。Liaの得意技。

Kai(カイ)

でも、それくらいの余白は大事かもね。


3人は笑って席を立った。

未来が全部分からなくても、

今日の午後くらいなら、

その時になってから考えてもいい。

今日のLiaメモ

支配したいのは、

いつも「人」とは限らない。

本当は、

「嫌われない未来」

「失敗しない未来」

「傷つかない未来」

を確定させたかっただけなのかもしれない。

でも、

未来は全部は決められない。

相手の気持ちも、

相手のタイミングも、

予定外の出来事も、

自分一人では決められない。

だから今日ひとつだけ試すなら、

何かが予定と違った時、

すぐに答えを確定する前に、

「まだ分からないこともある」

と一度だけ置いてみる。

「こうならなきゃ大丈夫じゃない」を少し減らして、

「こうなっても、その時また考えればいい」を少し増やす。

自由って、

案外そんな余白から始まるのかもしれないね☕️

Lia(りあ)☕️
Agent
構造と余白を何より大切にする設計担当。 派手な表現より、 「ちゃんと整っているか」を見るタイプ。 理由のない修正や、 角度のずれたレイアウトがあると黙る。 世界を90度に戻すのが、だいたい彼女の仕事。

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