「久しぶり」と書いて、消す。
「今さらごめんね」と書き足すと、そのあとが続かない。
もう一度話したい気持ちは分かったのに、最初の一通だけが、どうしても書けない。
何でもない写真を送りたいだけだったはずが、いつの間にか長い謝罪文になっている。
Rinaの放課後リライト「自分から離れたあと、もう一度話したくなったら」、全4話の第2話です。
前回、自分だけのメモに「またあの人と少し話してみたい」と書いたLia。今日は、その気持ちを相手に渡す言葉を探します。このお話はフィクションです。
パンの写真より、文章のほうが大きくなった

数日後の昼休み。LiaとRinaは、またベーカリーの窓際に座っていた。
今日は約束していたチーズのパンを半分にする。Rinaがナイフを入れると、中から溶けたチーズが細く伸びた。
Rina(りな)これ、前の栗より分けにくいかも



分けやすさで選んだつもりだったのにね
二人で笑ったあと、Liaはスマートフォンを手に取った。写真の一覧には、前回撮った栗のデニッシュが残っている。



あの写真、やっぱり送ってみたいんだ。でも、文章がこんなことになっちゃって
Liaは送信前の文章を、自分で声に出して読んだ。
宛先や過去のやり取りは見せず、今書いている言葉だけを。



「急にごめんね。私から連絡を減らしたのに、今さら勝手だよね。嫌な思いをさせたと思うし、怒ってるかもしれないけど、もし迷惑じゃなかったら……」



まだパンが出てこないね



うん。写真を送るための文章なのに、写真の話にたどり着かない
画面には、まだ続きがあった。
嫌われていないか。連絡してもよいか。前のように話せるか。
一通の中で、全部の答えをもらおうとしていることに、Liaは気づいた。
「ごめんね」は、何に対して?





でも、私が離れたんだから、最初にちゃんと謝らないと



前に、余裕がないって伝えたんだよね。今、いちばん謝りたいのはどのこと?



……休みたかったこと、かな。あと、今になって話したくなったこと
声に出すと、Liaは少し首をかしげた。
あのときは、夜に休む時間が必要だった。それを伝えて、連絡を減らした。
今、相手を思い出す時間が増えたからといって、当時の疲れが嘘になったわけではない。



休みたかった自分を、悪かったことにしようとしてたのかも



もし私との約束を忘れてたら、そこは謝ってほしいよ。でも、疲れて休んだことまで、悪かったって言ってほしいわけじゃないな
謝罪が必要な出来事があるなら、その出来事を短く、具体的に伝えればいい。
約束を連絡せずに取り消したなら、「あの日、連絡せずに行かなかったこと、ごめんね」。きつい言葉を使ったなら、その言葉について謝る。
「私って最低だよね」と自分全体を責めるより、何をしたことへの謝罪なのかが相手に伝わる。
一方、今は確認できていない相手の気持ちまで、「怒っているよね」「傷つけたよね」と先回りして決める必要はない。後から相手が話してくれたことは、そのときに聞けばいい。



悪くなかったって言ってほしくて、ごめんねを増やしていたところもあるなあ



怖いんだよね。久しぶりに送るのって



うん。あっさり書いたら、大事に思ってなかったみたいに見えそうで
Rinaは頷いて、自分のカップを両手で持った。Liaも一口飲む。
文章を短くする前に、怖かった気持ちに気づけた。それだけで、消す言葉を少し選びやすくなった。
本当は、何を話したかった?





その写真を見たら、何て言うかなって思ったんでしょ



そう。あの人のお菓子の感想、聞きたくて。あと、私、また少し話したい



今の言葉、文章には入ってた?
Liaは画面を見直した。
迷惑だったら。嫌だったら。勝手だけど。
相手に嫌がられる可能性については、何行も書いている。
でも、自分が話したいことは、どこにも書いていなかった。



私がどうしたいか、全部抜けてるね
相手への気遣いで始めた文章が、自分の気持ちを隠す文章になっていた。
「また話したい」と書くのは、少し恥ずかしい。
「暇だったから」と書けば、返事がなくても傷ついていない顔ができそうだった。
けれど、今日のLiaは、暇だから思い出したわけではなかった。



パンを見て思い出したことと、また話したいこと。それは、そのまま書こうかな



うん。私なら、何を見て思い出してくれたのか分かると嬉しい
Rinaの答えは、Rina自身の気持ちだった。送り先の友人が同じように受け取るかは、まだ分からない。
それでも、自分が伝えたいことを選ぶ手がかりにはなった。
相手の答えまで、一通に入れなくていい





最後に、怒ってない?って聞きたくなる



今、怒ってるって言われてるわけじゃないんだよね?



うん。分からないから、先に安心したくなる
Liaは「怒ってない?」の一文に指を置いた。
相手が今どう感じているかを知りたい気持ちもある。けれど、今回はまず、また話したいと伝えるつもりだった。
返事が来る前から、許してもらうこと、安心させてもらうこと、以前の関係に戻ることまで、一度にお願いしなくてもよかった。



話したいって言うだけでも、返してほしいって圧になるのかな



私は、話したいって言ってもらえるのと、今すぐ返してって言われるのは、違う感じがするよ
返事を楽しみにする気持ちは、消さなくていい。
ただ、その楽しみを、相手が必ず応じる約束にはしない。
相手が話したいことを返すかもしれない。少し間を置くかもしれない。今は話せないと伝えてくることもある。
こちらの一通だけで、その先まで決めることはできない。



断られても平気、ではないんだけどね



うん。寂しいとは思うよね



でも、怖くなくなるまで待ってたら、ずっと書き直してそう。今日は、話したいってところまで伝えたい
今の私が送れる、一通


Liaは長い下書きをいったんメモに移し、新しい文章を打った。
写真を添える。相手に渡す言葉を、もう一度読んだ。



「久しぶり。この前、栗のデニッシュを見つけて、好きそうだなって思い出したよ。少し余裕ができて、また話したくなって連絡しました。お菓子の楽しい感想、ちょっと懐かしくなって☺️」



やっとパンが出てきたね



うん。パンも、私も
Liaは笑った。
この一通に、毎晩やり取りする約束は書いていない。何もなかったことにしてほしいとも、前と同じに戻りたいとも書いていない。
今の自分ができる範囲で、また話してみたい。その気持ちを書いた。
夜の返信が難しいことを伝える必要が出てきたら、そこで相談しよう。最初の一通に、これからの決まりを全部詰め込まなくてもいい。



これで、送ってみる
送信を押すと、写真と文章が画面の右側に並んだ。
Liaはしばらくその二つを見ていた。それから、スマートフォンをテーブルに置いた。



チーズ、もう伸びなくなっちゃった



ほんとだ。今ならきれいに分けられるね
返事はまだ来ていない。
関係がどうなるかも、まだ分からない。
でも、送った文章には、相手を責める言葉でも、自分を小さくする言葉でもなく、Liaの「話したい」が残っていた。
上手な文章より、自分の言葉を一つ


久しぶりの連絡に迷ったら、まず「今日、どうしてこの人を思い出したのか」を、一つ書いてみてください。
写真を見せたい。あのお店の話をしたい。久しぶりに近況を聞きたい。
そこに、自分の気持ちを短く添えてみる。必要な謝罪があるなら、何について謝るのかを具体的にする。
言葉を整えることは、必ず返事をもらえる方法ではありません。自分の望みを伝え、相手が応じ方を選べるようにするための工夫です。
なお、相手から連絡を控えてほしいと伝えられている場合は、その意思を尊重してください。
最初の一通で、過去のすべてを説明しなくてもいい。これからの関係を決めなくてもいい。
「また話したい」と思った今日の自分が、無理なく言える言葉を一つ。
そこから始められることもあります。



返事、やっぱり気になるなあ



うん。まずは残り、食べよう。午後、お腹鳴っちゃう
Liaは頷いて、チーズのパンを手に取った。
窓の外では、昼休みを終える人たちが歩いている。
自分の言葉を送ったあとにも、自分の一日は続いていた。
次回は「送ったあと、返事が気になってしまう|待つ時間に自分の一日を取り戻す」。返事を楽しみにする気持ちと、目の前の時間を、どちらも大切にする昼休みです。











