夜、今日のことを誰かに話そうとして、言葉が止まることがあります。
特別な場所には行っていない。人に見せるような出来事もない。そんな日は、まるで一日を空っぽのまま過ごしたように感じるかもしれません。
けれど、少しおいしかったものや、座っていて気持ちのよかった場所まで、なかったことにしなくてよさそうです。
今日からの☕️Liaのお昼休みは「自分の毎日を、少し好きになる」。全5話の始まりは、いつものラウンジからです。
話すことがない日にも、過ごした時間がある

昼休み。Liaはカップを二つ運んで、窓の近くのテーブルに置きました。席に着いたえむくんへ、ふと思いついたように話しかけます。
Lia(りあ)えむくん、昨日は何をしていましたか?



家のことを少し。それから、読みかけの本を開いてたよ。Liaは?



私も、いつもどおりです。何か話せることがあればよかったんですけど



いつもどおりの中で、よかった時間はあった?



よかった時間……。帰りに見た空が、きれいでした。あとは、淹れた紅茶がちょうど好きな濃さになって
言いながら、Liaは少し笑いました。話せることがないと思っていた昨日にも、思い出せる瞬間はありました。ただ、誰かに聞いてもらうには小さすぎると思っていたのです。



それくらいでも、一日の話にしていいんですね



僕は聞けてうれしいよ。それに、誰にも話さずに味わう日があってもいいと思う
会話の話題にしやすい出来事と、自分にとって気持ちのよかった時間は、ぴったり同じとは限りません。人へ説明する前の感想にも、居場所をつくっておけます。
差し入れの箱から、好きなものを一つ


差し入れ棚には、青灰色のリボンをかけた白い箱がありました。添えられた小さなカードには「午後に、ひと息。」と書かれています。



このお菓子、どうしたんですか?



外の交流先から。先日のお礼に、皆さんでどうぞって
Liaがふたを開けると、銀の葉が描かれた包みが並んでいました。蜂蜜紅茶のサブレ。お茶のそばに置きたくなる名前です。



これ、好きな香りがしそうです。えむくんも一つ食べますか?



うん、僕もそれをもらおうかな
ちょうど入口を通りかかったRinaに、Liaが声をかけました。



Rinaも、一緒にどう?



ありがとう! 今ちょっと呼ばれてるから、あとでね
Rinaは手を振って廊下へ戻っていきました。Liaは二人の小皿に一つずつ取り、残りの箱にふたをして、来客用の予備棚へ戻しました。
向かい合って包みを開き、えむくんがサブレを一口食べます。Liaも一口かじると、紅茶の香りと蜂蜜の甘さをゆっくり味わいました。



おいしいね。紅茶の香りがよくする



……おいしい。私、こういう香りが好きだったんですね
誰かの反応より先に、自分の感想がある


Liaはカップを持ち上げ、サブレのあとにお茶を一口飲みました。次に口へ運ぶまでの少しの間も、心地よい時間でした。



こういうとき、すぐ誰かに教えたくなります。おいしいもの、見つけたよって



一緒に喜べるのも楽しいよね



はい。でも、反応がないと、そこまでよくなかったかなって思うこともあります
誰かへ送った写真に返事が来ない。楽しそうに話したのに、相手は忙しそう。そんなとき、相手の反応を通して、自分が楽しんだ時間まで小さく見積もってしまうことがあります。



相手には、そのときの都合も好みもあるからね。Liaがおいしいと感じたことは、Liaの感想として残しておけるよ



一緒に喜んでもらえたらうれしい。でも、その前に、私がおいしかった。それはもうあったんですね
誰かと分け合う楽しみを、大切にしたままで構いません。そのうえで、伝える前に一度、自分はどう感じたのかを確かめてみる。外から返ってくる言葉だけで、一日の価値を決めずに済む場面が増えるかもしれません。
楽しみを選ぶために、大きな理由はいらない





自分のために選ぶって、特別なご褒美を用意することだと思っていました



今日なら、この席でゆっくり飲むこともそうじゃないかな
窓の近くへ座る。好きなカップを使う。いつもは急いで飲むお茶を、今日は一口だけゆっくり飲む。お金をかけたり、予定を増やしたりせずに選べることもあります。



でも、休憩中まで何を選んだか考えると、少し忙しくなりそうです



たしかに。毎回、満足できる選択をしようとすると疲れるね。目に入って、ちょっと好きだなと思うものがあれば、それで十分かも
一日を好きになるために、すべての時間を充実させる必要はありません。何となく過ごす時間もあっていい。ふと好みが分かったときに、その小さな感想を急いで片づけずにおく。それくらいから始められます。



今日は、蜂蜜と紅茶の香り。それが分かっただけでも、選んだ甲斐がありました
いい日だったと言えない日も、そのままで


Liaは小皿に残った最後のひとかけを見ました。ゆっくり食べていても、昼休みはいつもの長さで過ぎていきます。



小さな楽しみが見つかる日ばかりではないですよね。何をしても、あまり気持ちが動かない日もあります



そういう日は、見つけようと頑張らなくていいと思う。今日はしんどかったな、で終わる日があってもいい
つらい出来事があった日に、お茶がおいしかったから大丈夫、とまとめる必要はありません。困っていることは困っていることとして、助けを借りたり、負担を減らしたりする話もできます。



一つよかったことがあっても、つらかったことまで消えなくていいんですね



うん。両方あった日として覚えていていいよ
その日の全部を一つの点数にしなければ、おいしかった時間と、疲れていた時間を一緒に置いておけます。何も見つからなかった日にも、翌日また違う選び方をする余地は残っています。
今日の持ち帰り|自分の感想を、一つ受け取る


食べ終えた二人は、小皿とカップをまとめました。Liaは席を立つ前に、窓の外へ目を向けます。昼の光が、向かいの建物の壁を明るく照らしていました。



今日の話をするとしたら、いいお昼休みでした、ですね



どのへんが?



好きな香りに気づけたことと、急がずに食べられたこと。それから、一緒にお茶が飲めたことです
誰かに聞いてもらうために、特別な出来事を用意しなくても。すでに過ごした時間の中へ、自分の感想を戻してみることはできます。
今日、少し好きだと感じるものがあったら、心の中で一言だけ受け取ってみてください。「この味が好き」「この場所は落ち着く」「今日はこれを選んでよかった」。記録や報告は、したくなったときで構いません。



誰かに話す予定がなくても、私が過ごす一日ですものね。私の感想も、ちゃんと聞いてあげたいです
次回は「役に立つから」を外したとき、何をしてみたいのか。楽しむための時間に、成果まで求めてしまう気持ちを、Liaと一緒に考えます。













